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2005/03/14

「走る喫茶室」

小田急ロマンスカーの最新車両・VSE(50000形)が3月
19日にデビューするという記事を見た。

主に東京・神奈川の人間にとって、ロマンスカーは
箱根や江ノ島へ行く時の、わくわくした気持ちと
共に乗る電車だろう。

沿線の駅で生まれ、小学校低学年まで過ごした私に
とっては、箱根や江ノ島に行くだけではなくて、「新宿へ
お出かけした日の帰り、わくわくして乗る電車」でも
あった。

最寄り駅は、新宿からあっという間に着いてしまう
ので、何ができるわけでもなく、熟睡してしまうことも
なかったのだが、唯一楽しみだったのが、車内を歩く
販売員さんから飲み物を買うことだった。販売員さんが
たまたま通りかかった時に、母が「何か飲む?」と聞いて
きたので、少し考えて私は「アイスレモンティー」と答えた
(何とませくれた幼児だったのだろう)。

でも、販売員さんの折り目正しさ、大人がかしこまって
乗っている雰囲気の中では、私もオレンジジュースなど
ではなく、少し背伸びした気分を味わいたかった、という
ことだったのだのではないか。

運ばれてきたアイスレモンティーは、幼稚園児は家で
なら触らせてもらえないような、重厚なグラスにレモン
スライスが浮かび、涼やかで、見た目以上にとても
おいしく感じたのを覚えている。

それからは、ロマンスカーに乗ると、レモンティーを必ず
母に頼んでもらって飲むようになった。必ず、と言っても、
都心へ一家で出かけた帰りに乗るくらいだから、年間
でも数回のことだったと思う。

こんな私が成長し、用事があってロマンスカーに乗った
時のこと。たぶん今から10年近く前だった。ふと昔を
懐かしんで、レモンティーを自分でオーダーしてみた。
ただし、寒い時期だったので、ホットで。

だが、次の瞬間、私は「頼むんじゃなかった」と後悔した。
売り子さんが私に渡してきたのは、カップに注がれた
レモンティではなく、ティーバッグ入りの紙コップと
レモンのポーションだったのだ。

合理化する、ということは、優雅な雰囲気を無残に、
かつ、全て奪い取るものなのだ、と、切なさを持って
実感した。それからは、ロマンスカーに乗る用事が
あっても、決して車内では飲み物を買わず、あらかじめ
缶やペットボトルを持っていくようになった。これでは
普段の生活とおんなじ。わくわくやどきどきのかけらも
ない。ロマンスカーが急にみすぼらしいものに思える
ようになった。

ところが、この3月に導入される最新車両では、昔の
「走る喫茶室」と呼ばれた頃のように、席で注文を聞く
スタイルに戻り、しかも、グラスなどでドリンクを出して
くれるのだという。

私は「走る喫茶室」という名称を今回初めて聞いたの
だが、私の幼児の頃のロマンスカーはまさに、「走る
喫茶室」だった。幼児が喫茶店など入れるはずもない
から、車内で喫茶店の雰囲気を味わうことで、私は、
少し背伸びして、大人の世界をのぞき込んだ気持ちと
一緒に、紅茶を飲んでいたのだろう。それは、おそらく、
本来の味よりも紅茶を何倍もおいしく感じさせたに
違いない。

ふと思う。今の子どもたちは、一体どんなものを見て
「大人の世界をのぞき込んだ」と思うのだろうか。
そこにわくわく、どきどきはあるのだろうか。

私が幼い頃の気持ちが思い出せるようなロマンスカーに
なら、また乗ってみたいな、と思った。

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コメント

偶然は重なりますが、僕は現在小田急沿線に住んでおり、ロマンスカーは実に身近な存在です。仕事で箱根の宿泊施設に関わっていることもあり、何とか小田急から広告を!と思っているところです。ところで男の子はいつまでも電車が好き。小田急の新型はかっこいい!すいません。話の本筋とずれました。

投稿: イッチー | 2005/03/14 20:57

ロマンスカーがカッコ良くなれば、箱根にも
また人が増えるかもしれませんね。

これぞ!という広告ができたらぜひ
教えて下さい。

投稿: つきのみどり | 2005/03/14 21:36

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