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2006/05/18

『凶刃』 突然絶たれた未来

Blog060518


この本のタイトルは『凶刃』。
きょうじん、と読む。

2005年12月6日の白昼、香川県内で、
矢野真木人(やの・まきと)さんという
28歳の男性が、見ず知らずの男性に
刺し殺された。

彼を刺した犯人は、近くの精神病院に入院中、
社会復帰のトレーニングとしての外出中に
犯行に及んだものだった。そう、矢野さんは、
通り魔殺人の犠牲者になったのだ。

本には、ご両親が事件を知らされてから葬儀を
出されるまでの経緯や、犯人・犯人が入院して
いる病院を知ってから、そして、病院の対応に
対する矛盾点などを書き綴られている。

冷静なご尊父の分析も立派だと感じたけれど、
胸にこみ上げるものがあったのは、ご母堂の文。
アパート暮らしの息子さんのため、洗濯したシャツ
などを入れたスポーツバッグを事件の前日渡した
そうなのだが、それが「そのまま使われずに部屋に
残っていた」という話など、母親としての愛情と
つらさが、一気に読者にも押し寄せてくる。

私は精神科の医師ではないが、毎日生徒たちと
接していて、ある日突然問題を起こす子どもは
いない、と感じる。学校に来なくなる前、友人と
トラブルを起こす前…何かしら彼らはサインを
出している。

今回の事件も、返り血を浴びた服を着たまま
病院に戻った犯人は、何のお咎めもなく(!!)
病院で丸一日過ごし、翌日、現場に再び
現れたところを、報道機関の方が発見して逮捕に
至った、ということだそうだけれど、いったい病院
関係者の方はどういう仕事をしていたのか、と
私でも問いかけたくなる。

精神病で通院歴があると、犯人は不起訴になる
ことが多い。そうなると、犯人の名前はおろか、
事件の真相は全て見えなくなる。家族が突然
命を奪われたのに、真実を知ることはできず、
ただ悲しみにくれるだけの日々を送ることになる
かもしれない。また、犯人も「無罪放免」という
ことになり、また罪を犯すかもしれない。

(その後、この犯人は起訴され、今、裁判で
責任が問われている。でも、悲しいかな、東京に
いると、なかなか地方のニュースが入ってこない。
私もwebで記事を探すくらいしか、裁判の様子を
知る手段がない)

通り魔殺人は決して他人事ではない。いつ誰が
どこで危険にさらされるかわからない。この事件に
関する報道でも、「学校の登下校時だったら」と、
恐怖心を抱いた、子どもを持つ保護者の声が
紹介されているものがあった。

また、心の病にかかる方が増えている現在、
悪化して病院に入院する人も多いのではない
だろうか(東京では、心を病む公立校の教員が
増えているそうだ)。となると、「被害者」だけで
なく、「加害者」になる、または身近に加害者が
出ることだって珍しくないかもしれない。

矢野さんのご両親は、悲しいけれどもこの事件を
礎(いしずえ)にして、日本の刑法39条・精神科
治療の問題点を改正してほしい、と訴えられても
いる。事件後も心痛の中、本を出版されるだけでは
なく、新聞社の取材にも対応し、決して個人的
恨みつらみではない、日本の国家を憂う思いを
伝えていらっしゃる。


折りしも、東京では犯罪被害者の遺族の皆さんが、
不条理に未来を突然奪われた家族のことを伝える、
「生命のメッセージ展」を開いていらした。

矢野さんのご冥福をお祈りし、そして、他人事とは
思わず、ぜひこのような問題にも関心を持って
いただける方が増えれば、と私も願わずには
いられない。

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コメント

真実がわからないというのは、突然に命を奪われたことに対して、さらに拍車をかけることを想像します。

本当のことだけでもわかると、目の前のもやもや感が少しは晴れたりするものなんですけど…というのも、私が自分の事件、裁判などを通して得た経験からなんですがー(笑)。

投稿: 濱祐 | 2006/05/19 11:19

つきのみどり様

本当に理不尽さを感じずにはいられない事件です。
時間がたてば癒されることではないので、矢野さんご家族の気持ちを思うと・・・

私たちは、このゆがんだシステムに気づき、それが改善出来るよう努めなければならないと思います。

そのためにも、
少しでも多くの方に読んでいただきたい本です!

投稿: こと | 2006/05/19 18:44

>濱祐さん

ご無沙汰しております、コメント
ありがとうございます。


>真実がわからないというのは、
>突然に命を奪われたことに対して、
>さらに拍車をかけることを想像します。


おっしゃる通りですね。
朝、元気に家を出た家族が
突然命を落とし、しかも、
原因が闇の中、というのでは
あまりにもご遺族が気の毒です。
万が一、犯人が不起訴になったと
しても、せめてご遺族には真実が
伝えられれば、と今回痛切に
感じました。

投稿: つきのみどり | 2006/05/20 00:37

>こと様


ご来訪ありがとうございました。
時間がたってもご遺族の悲しみは
癒えないでしょうし、もし私が
ご遺族の知人だったら、なんと
言葉をかけるべきか答えが
出ないかもしれません。


少しでも多くの方にこの事件に
ついての関心が持たれるよう、
私も心から願っております。

投稿: つきのみどり | 2006/05/20 00:49

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