« 演劇集団キャラメルボックス『きみがいた時間 ぼくのいく時間』 待つことの意味 | トップページ | 情報・判断・表現 2008年4月の思い »

2008/03/14

映画「明日への遺言」 現代人だから伝えられること

映画「明日への遺言」を観た。

「あしたへのゆいごん」と読むこの映画。
観たいと思っていたところ、ある会社でのチケット
プレゼントのお知らせを知り、応募。運良く
いただけたので、観ることができた。
(この場でお礼申し上げたい)

監督は小泉尭史氏。そう、「世界のクロサワ」
黒澤明のもとで長く助手を務めていた方。

原作は大岡昇平『ながい旅』だと、映画の
宣伝広告で知った。見た瞬間、戦争体験の
ある作家、とすぐ思い出した。第二次世界大戦で
フィリピンに出征し、俘虜となった体験の持ち主。

早速文庫を買い求め、映画館へ向かう合間も読む。
映画館には、平日の夕方、幅広い世代の方が見に
来ていた。

主人公、岡田資(おかだ・たすく)は、大戦中、陸軍
中将だった。「絨毯爆撃を行なったアメリカ軍兵士を
処刑した」罪で、戦後、B・C級戦犯裁判にかけられる。
戦時中は問題にされなかった行為が、敗戦国と
なったことで、罪とされる。戦争がもたらす運命の
変転を、まず私たちは突きつけられる。

ただ、岡田中将がわのフェザーストーン弁護士が、
「絨毯(じゅうたん)爆撃は、民間人を攻撃したもので、
そもそも1929年のジュネーブ条約違反だから、
アメリカ軍兵士を処刑しても問題ないはずだ」と、
裁判で、「無差別爆撃」を立証していく。

(ちなみに、アメリカ軍が絨毯爆撃をするように
なったのは、カーチス・ルメイという人物が
司令官になって以後のこと。「日本は住宅地に
軍需工場が点在しているから、空爆しても良い」と
いう理屈だったらしい。東京大空襲も彼の作戦下に
行なわれた。その彼には、戦後、「日本の自衛隊の
創設に貢献した」という理由で、勲一等旭日大綬章が
贈られている。その時の首相は佐藤栄作だと、私は
有田芳生氏のブログ・3/11付記事で知った)

岡田中将は、「自分ひとりが戦犯として処刑される
ことで、前途ある若者たち、部下を救おう」と決意し、
ひとり戦いを挑んでいく。

映画を観終え、気づいたことが3つある。
まず、「戦争のもたらす価値観の変遷のむごさ」。
当たり前だが、戦争に負ければ、昨日まで正義
だったことがすべて悪になる。価値観の変遷は
プラスに働く場合もあるけれど、このような形での
価値観の変遷は、あってはならない。岡田中将は
真正面から受け止めたが、そのことに耐えられず、
軍人にも自殺し、逃げた者もいる。

次に、「品格ある行動は、品格ある考え方から
生まれ、真に品格ある態度は、国や立場を越えて
共感を呼ぶ」こと。去年から品格、品格と言われて
いるが、そもそも、普段の行動や考え方に品格が
伴っていなければ、いざという時に表れるはず
などない。そして、その態度が真実のものならば、
家族はもちろん、立場も国も違う人からさえ理解
され、敬愛される。

そして、「戦争の惨禍を直接経験していない者
だからこそ、総合的に伝えられることがある」こと。

空襲、被爆、沖縄戦、引き揚げなど、筆舌に
尽くしがたい中を生きのびていらした方のお話
には、もちろん、重みがある。真摯に受け止め、
その後悲惨な経験を繰り返さぬように語り継いで
いかねばならない。

しかし、直接経験なさった方は、「ご自分の経験」を
語ることはできても、「その当時の全体の状況」を
把握されることは難しい。まして、第二次大戦当時の
日本では、報道統制などもあり、自分の周囲の
ことしかおわかりにならなかったのが普通だろう。

大岡も、「私は『レイテ戦記』で昭和十九~二十年の
南方の戦場の実情を伝えたつもりであるが、内地の
被爆状況と降伏に到るまでの経験はなく」と、はっきり
『ながい旅』で記している。

また、終戦から数十年経過し、明らかになった事実も
多くある。『ながい旅』も、初版は昭和57(1982)年の
発行だった。

それならば、つらいお話を語って下さるありがたさを
受け止め、多くの方の悲惨な経験や事実を総合して、
「戦争の愚かさ、むごたらしさ」を伝えていくのが、
私たち現代人にできる最善のことではないだろうか。

よく、私は生徒たちに言う。
「戦争に送り出す、つまり、死なせるために子どもを
育てている親はいないよ。私も、みんなを戦争に
送り出すためにこういう仕事をしていないよ」

この『明日への遺言』は、現代人がなすべきことを
改めて教えてくれる作品だと感じた。ぜひとも、
ひとりでも多くの方に観ていただきたい。

発売中の「文藝春秋」4月号で、牛村圭氏(国際
日本文化研究センター
教授)が、すぐれた分析を
載せられている。『ながい旅』を読む暇がない方は、
そちらをご覧になってから映画館へ足を運ばれる
ことをおすすめしたい。

|

« 演劇集団キャラメルボックス『きみがいた時間 ぼくのいく時間』 待つことの意味 | トップページ | 情報・判断・表現 2008年4月の思い »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/73691/40501165

この記事へのトラックバック一覧です: 映画「明日への遺言」 現代人だから伝えられること:

« 演劇集団キャラメルボックス『きみがいた時間 ぼくのいく時間』 待つことの意味 | トップページ | 情報・判断・表現 2008年4月の思い »