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2013/02/11

映画「東京家族」 無常というつらさと喜び

公開中の「東京家族」を観てきた。


ふらりと出かけた先で思いついて、観た。
山田洋次監督の最新作、小津安二郎監督の
「東京物語」へのオマージュ。東日本大震災で
脚本を書き換えられたと聞いていた。

上映開始間もなく、どことなく見覚えある
風景が目に飛び込んできて、驚く。主な舞台は
東京郊外、つくし野。東急電鉄の分譲地は
山を切り開いたので、坂が大変多く、どことなく
似た風景が広がる。

広島の瀬戸内海に浮かぶ島から上京した
老夫婦(橋爪功さん、吉行和子さん)。品川駅で
新幹線を下車し、つくし野で医院を開業している
長男夫婦(西村雅彦さん、夏川結衣さん)のもとを
訪れる。

別の地で美容院を切り盛りする長女(中嶋朋子さん)、
また、舞台美術の仕事をしていて、父から理解
されない次男(妻夫木聡さん)と、子どもたちも全員揃う。

個人的に、見慣れた風景、そして、長女で弟がおり、
また、長男の嫁だった期間もあるので、さまざまな
風景や立場に感情移入しながら見入ってしまった。

作品を見終え、心をよぎったのは、「無常」という言葉。
無常、世の中は同じではなく、常に動いている。
大災害では多くの人が命を突然奪われるが、
大災害でなくても、ある日突然命を落とす人もいる。

こういう悲しい意味での無常もあれば、良い意味での
無常、同じではない、という意味もあると私は思う。

両親、そして兄姉の心配の種は、末っ子の次男。
「東京物語」では戦死していることになっているので、
彼の設定は山田監督のオリジナル。

都会でひとり暮らしをし、アパートとはいえ駐車場付の
住まいで暮らしているというのは、充分自立している
範疇に入るが、兄姉と比較するとどうしても不安定に
見える。しかも、旧世代で「安定」の代名詞のような、
元教員の父には、到底、次男のことなど理解できる
はずもない。

ところが、彼もまた無常ではなく、親の知らぬところで
成長していた。真面目で心の優しい女性(蒼井優さん)と
共鳴しあっている、息子の良さに気づく。彼女もまた、
次男のこだわりや優しさを理解している。彼女の
存在を通じ、息子の良さに次第に気づかされる父。
育った土地も、仕事もまったく違うふたりを結びつけた
のは、東日本大震災のボランティアだった。

父のエンディング近くでの発言は、彼が人の良い
ところをきちんと見抜け、素直に認め、ほめることの
できる、素晴らしい教員だったとわかる。私はここに
一番心打たれた。

無常ということは、激動の時代に書かれた『方丈記』や
『徒然草』を貫くテーマでもある。昨日と同じ日など、
来るはずもない。今日は明日になれば近い過去に
なり、そして、いつか遠い記憶となる。

ただ、遠い記憶というのは、風化させる、と言う
意味ではない。

『方丈記』の津波や大地震の話を授業で扱うと、
現代の地震と同じような描写に生徒は言葉を失う。そして、
「今は科学が発達しているのだから、それを上手に使い、
知恵を集めて災害を乗り越えていくのよ」
と言うと、素直に受け取ってくれる。科学の発達と
いうのも、昨日と同じではない、ということのひとつだろう。

無常とは、つらいことでもあるが、昨日と同じではない、と
いうのは、日々成長、進化している証でもある。それなら、
つらい側面があることも心の片隅に置きつつ、
良い変化を重ねていきたい。

この作品は、そんな風に思わせてくれた。

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